お客様の喜ぶ顔が力に あさくら果実園
クリニック周辺で頑張る人々の姿をインタビュー記事と写真で紹介する「地域の主役たち」。どのような思いやこだわりを持って取り組んでいるのかなどをお伝えしていきます。
暑い日でも、口にすると爽やかな気分を運んできてくれる新鮮なフルーツ。朝倉市烏集院の「あさくら果実園」を、父親と夫と切り盛りしている稲葉悦子さんは、1年を通してさまざまな果物を育てています。
豊かな自然に囲まれた稲葉さんの畑では、ふっくらと丸いピンク色の桃、艶々と輝くシャインマスカットが実っています。他にも、いちごやいちじく、柿やみかんも育てています。
農家の三姉妹長女として生まれ育ち、農業歴は40年近く。「代々続く農家から父親の代で柿農園を始めました。パイロット事業が関係していたようで、富有柿は流行りましたよね。それから、果物の種類が増えていきました」
現在、6種類の果物を栽培していますが、季節によって育てる果物は異なります。苗植えなどの時期も別々で、果樹の生育状況を確認しながら行う仕事が数多くあります。どれだけ忙しくても、おいしい果物を作るためには時期やタイミングはずらせません。「いちごは1年中大変。秋ごろから植えるため、収穫する時から次の苗作りが始まります。シャインマスカットは花が付く前に蕾を短くする作業の後、種が入らないように処理して形づくりをしたり。栽培で大変なことは摘蕾作業。一番エネルギーを使いますね」と稲葉さん。
以前は柿栽培が中心でしたが、2017年に起きた九州北部豪雨で柿園に行く山が崩れ落ちてしまい、通れなくなってしまったそう。「復旧させるには膨大な費用が必要になるし、山から畑に行く道は高齢の親にとって大変だと思っていました。そんなこともあり、ビニールハウスでいちじくを多めに作っていたところ、桃とシャインマスカットも作り始めるようになりました。農業は、何が起こるかわからない自然が相手。仕方がないとは思いますが、毎年台風や豪雨が起きないことを祈るばかりです」
農業の傍らカフェの経営も始めました。「大きな倉庫があったことや柿の宅配を頼みに来る人たちにお茶を飲んでもらったり、周りから見えにくい入り込んだ場所なため、サラリーマンが車で休憩している姿をよく見かけていましてね。絶好のさぼり場所なのかもと思って。あと、近くにバイパスが通る計画も知ってカフェを思いつきました」
しかし、周りの人に開業のことを話すと「なんでもっと広い場所でしないんだ」「こんな誰も知らないような、わかりにくい場所でしないほうがいい」などと、不思議がられ反対の意見があったと言います。「私のことを頭がおかしくなったんじゃないかなんて言う人もいたけど、取れたての新鮮な野菜やフルーツを実際に食べてもらって、買ってもらいたい提供したいという思いが強くありました」。持ち前のバイタリティを発揮し、平成11年4月8日に農家が経営するカフェ「楓」が誕生しました。
古い建物から生まれ変わった古民家カフェは、ゆっくりくつろげる空間が広がり、どこか懐かしい気持ちにさせてくれます。「実家に帰ってきたような気持ちでゆっくり過ごしてほしい」をコンセプトに、季節ごとに変わるフルーツが目玉。旬の果物を使ったデザートは果実園ならではのフレッシュさ。他にも、博多万能ねぎを使ったピザも人気だそう。
お店の宣伝のためにブログを開設したり、SNSを通して若い来客者も増えている中、9月に新たなお店を始めました。カフェ「楓」をスイーツ中心のテイクアウト専門店(お弁当、ピザもあり、イートイン可)として再スタートさせ、下の通りにある末金製材所敷地内に「樹と風の駅」をオープン。「樹と風の駅」では、季節のフルーツや野菜、ジャムなどの加工品やお弁当、総菜などを販売しています。「農業に重点を置こうと考え、直売に力を入れることに。直売は流通と違って新鮮な物が買えます。特にフルーツは、みずみずしくておいしいと喜んでくれるお客様が多く、その姿を直接見られるのは嬉しいこと。直接食べごろを教えてあげながら、コミュニケーションをとるのも楽しいひと時だと感じています」
行動力のある稲葉さんのパワーの源は、考えすぎないことだそう。「小さなことは気にしない、そしてくよくよしない。あとは寝るようにしました。以前は、寝る時間がもったいないと思って仕事ばかりしていましたが、寝ることは大切だよって知り合いに言われて、ちゃんと寝るようにしました。今は横になったら、すぐ寝ちゃう」と、人懐っこい笑顔で教えてくれました。
とろけるような果肉とみずみずしい果汁の桃、爽やかな甘さでぎゅっと引き締まった実のシャインマスカットを一口。思わず笑顔がこぼれました。みなさんも稲葉さんが丹精込めて作った自慢の果物を手に取ってみてはいかがでしょう。
◆「Cafe 楓」 福岡県朝倉市烏集院158−1
◆「樹と風の駅」 朝倉市烏集440-1 386バイパス沿い