脂質異常症・高尿酸血症DYSLIPIDEMIA・HYPERULICEMIA
以下のような事がありませんか?
- コレステロール値や尿酸値が高い
- 家族も同値が高い
- 既に、心臓病・脳梗塞・腎臓病を発症している
早目に医療機関へ相談しましょう。
- 脂質異常症
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始めに
高脂血症は、血液中の中性脂肪(トリグリセライド)やLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が基準より高い、またはHDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)が基準より低い状態のことをいいます。高脂血症の最大の問題は、自覚症状が何もないという点です。高脂血症の状態を放置していると、動脈硬化は進行していき、血液の流れが滞ったり、血管がダメージを受けたり、最後には狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、腎機能低下に関連することになってしまうのです。動脈硬化を進めないようにすることが治療の重要な目的です。定期的な血液検査を受け、症状がなくても、まず食生活・運動量の見直しや禁煙などを中心に生活習慣の改善を行い、数値をコントロールしてきましょう。動脈硬化による病気を起こすリスクが高いときには薬物療法を行っていきます。
出典:British Heart Foundation 動画「Coronary heart disease, clogged arteries and atherosclerosis」より
プラーク形成
プラーク蓄積は、脳循環に直接関連する、頸動脈で評価することが一般的です。既に高度プラークを形成している症例は、同様に心臓にもプラークを形成していることが多く、無症状であっても狭心症の精査を提示することがあります。
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時間経過で段階的に肥厚した頸動脈プラーク
- プラークが高度となって、脳血流低下から慢性的経過で脳虚血を発症します。
- プラークの一部塊が末梢に飛んで、脳梗塞を発症します。
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頸動脈プラーク
(実際のエコー評価動画)
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心臓冠動脈のプラークイメージ
頸動脈プラークの程度に比例して、冠動脈にもプラークが形成され、狭心症や心筋梗塞の予備群となります。
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LDLコレステロール暴露量と累積期間の両方が、心血管リスクに悪影響を与えます。
心筋梗塞のリスクを抑えるためには、若年時からLDLコレステロールをしっかり下げておいた方が良いのは、ほぼ間違いありません。この研究では、LDLコレステロールが高ければ高いほど、若年でプラーク形成が増幅して、同じく若年で心筋梗塞は発症しやすい事を示しています。
Brian A. at al. J Am Coll Cardiol 2018
診断基準
まず、
- LDLコレステロール 120mg/dl超
- 空腹時中性脂肪 150mg/dl超
どちらかに該当した場合、併存しているリスクを勘案して、治療基準を決定します。
LDLコレステロール 140mg/dl以上 高LDLコレステロール血症 120~139mg/dl 境界域高LDLコレステロール血症*2 HDLコレステロール 40mg/dl未満 低HDLコレステロール血症 中性脂肪 150mg/dl以上(空腹時採血*1) 高中性脂肪血症 175mg/dl以上(随時採血*1) *1 基本的に10時間以上の絶食を「空腹時」とする。但し、水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。空腹時であることを確認できない場合を「随時」とする。
*2 スクリーニングで境界域高LDLコレステロール血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討して、治療の必要性を考慮する。
リスク層別化と達成目標
低リスク中リスク高リスク年齢と危険因子の個数を当てはめて、低・中・高3つのリスク階層においてどれに該当しますか?
性別 年齢 危険因子の個数 分類 男性 40~59歳 0個 低リスク 1個 中リスク 2個以上 高リスク 60~74歳 0個 中リスク 1個 高リスク 2個以上 高リスク 女性 40~59歳 0個 低リスク 1個 低リスク 2個以上 中リスク 60~74歳 0個 中リスク 1個 中リスク 2個以上 高リスク 低リスク中リスク高リスク低・中・高3つのリスク階層別に、推奨される上限値が決定します。
治療方針の原則 管理区分 脂質管理目標値(mg/dl) LDL-C NON-HDL-C TG HDL-C 一次予防
まず生活習慣の改善を行った後薬物療法の適用を考慮する
低リスク < 160 < 190 < 150(空腹時)*3
< 175(随時)≧ 40 中リスク < 140 < 170 高リスク < 120
< 100*1< 150
< 130*1二次予防
生活習慣の是正とともに薬物治療を考慮する
冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞(明らかなアテローム*4を伴うその他の脳梗塞を含む)の既往
< 100
< 70*2< 130
< 100*2*1 糖尿病において、PAD、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合に考慮する。(第3 章5.2参照)
*2「急性冠症候群」、「家族性高コレステロール血症」、「糖尿病」、「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞(明らかなアテロームを伴うその他の脳梗塞を含む)」の4病態のいずれかを合併する場合に考慮する。
一次予防における管理目標達成の手段は非薬物療法が基本であるが、いずれの管理区分においてもLDL-Cが180mg/dL以上の場合は薬物治療を考慮する。家族性高コレステロール血症の可能性も念頭に置いておく。(第4章参照)
まずLDL-C の管理目標値を達成し、次にnon-HDL-C の達成を目指す。LDL-Cの管理目標を達成してもnon-HDL-Cが高い場合は高TG 血症を伴うことが多く、その管理が重要となる。低HDL-Cについては基本的には生活習慣の改善で対処すべきである。
これらの値はあくまでも到達努力目標であり、一次予防(低・中リスク)においてはLDL-C低下率20~30%も目標値としてなり得る。
*3 10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。それ以外の条件を「随時」とする。
*4 頭蓋内外動脈の50%以上の狭窄、または弓部大動脈粥腫(最大肥厚4mm以上)
高齢者については第7章を参照。
肥満症という氷山上の一部
“高脂血症”を見つけたら、併存しやすい氷山の上方とより重大なリスクとなる下方、つまり隠れたその他のリスクも意識して、治療することが重要です。
2次性高脂血症 or 家族性高脂血症
脂質異常症と診断されたら 甲状腺機能低下症などの2次性のものか? 遺伝性家族性のものか? 初回診療時には鑑別が必要です。
家族性高脂血症
- 病態
- 脂質が高くなる遺伝病です。若年から心筋梗塞などの動脈硬化疾患を起こすことが特徴であり、十分な治療が必要です。
- 頻度
-
重症-ホモ接合体 100万人に1人
軽症-ヘテロ接合体 500人に1人 - 診断
-
以下2項目を満たす
- 未治療時のLDL-C 180mg/dl以上
-
腱黄色腫あるいは皮膚結節黄色腫の存在
※腱黄色腫の存在は、アキレス腱X線軟線撮影により、男性8.0mm以上、女性5.5mm以上で診断する。
-
第1度近親者における家族性高脂血症
あるいは早発性冠動脈疾患の家族歴※早発性冠動脈疾患は、男性55歳未満、女性65歳未満で発症した冠動脈疾患に、これを定義する。
2項目を見たなさなくとも
・LDL-C 250mg/dl 以上
・[2]または[3]をみたし、LDL-C 160mg/dl 以上 - “重症”
診断 -
- 未治療時のLDL-C 400mg/dl 以上
- 未治療時のLDL-C 310mg/dl 以上かつ1つ以上のリスクファクター
- 未治療時のLDL-C 190mg/dl 以上かつ2つ以上のリスクファクター
リスクファクター
- 40歳以上
- 喫煙
- 男性
- 高血圧
- 糖尿病
- 早発性心血管疾患の家族歴
- 慢性腎臓病
- BMI30以上
- リパーゼ高値 > 50mg/dl
家族性高コレステロール血症が
起きる仕組み
発症頻度
家族性高脂血症の所見と症状
悪玉コレステロールが増えて動脈硬化が進行すると
薬物療法
基本的には、コレステロールは低ければ低いほど、心筋梗塞や脳卒中、腎代替療法に至る腎臓病リスクは下げっていきます。
“The lower, the better”
食事・運動療法に加えて、薬物療法が3大治療となります。薬物療法の考え方として、日本と欧米で一部で異なりますが、基本的には、“The lower, the better”、下がれば下がるほどよいという科学的に証明された内容に基づきます。“一生薬の飲むのが嫌だ” という患者さんからの御気持ちを膨診療場面でよく伺います。私は常に、手段と目標を分けて下さいというように、以下のように説明しています。要約すれば、
- 薬を飲む手段が悪いのではない、脳卒中や心筋梗塞、腎代替療法/透析に至るまでの結果をしっかり回避する目的をいつも最重視して下さい。若年時から、この積算リスクを回避して下さい。
- 薬を飲むのはその最たる手段です。食事や運動療法によって基準値以下まで短・中・長期的にコントロールできるならば、それで構いません。しかし、基準値以下までコントロール出来ないならば、常にリスクに暴露され続けている事を忘れないで下さい。
- 目的を重視した科学的結果を重視して、巷の嘘か誠かようわからん、特に“手段のみ”にこだわる情報に惑わされないで下さい。
薬物療法を開始した場合、
- 開始して、放置 → Fire and Forget 一部では欧米よりの考えです。
- 目標に合わせて治療 → Treat to Target 日本のガイドライン的な考えです。
分類 LDL
コレステ
ロール中性脂肪 HDL
コレステ
ロール副作用 一般名 商品名 スタチン ↓↓
~
↓↓↓↓ −
~
↑横紋筋融解・筋肉痛、肝障害 プラバスタチン
ピタバスタチン
ロスバスタチンメバロチン®
リバロ®
クレストール®小腸
トランスポータ
阻害剤↓↓ ↓ ↑ 消化器症状、
肝障害エゼミチブ ゼチーア® 選択的PPARα
モジュレーター↑
~
↓↓↓↓ ↑↑ 横紋筋融解、
胆石ペマフィブラート パルモディア® フィブラート系薬 ↑
~
↓↓↓↓ ↑↑ 横紋筋融解、
胆石、肝障害ペマフィブラート ベザトール® 陰イオン
交換樹脂↓↓ ↑ ↑ 消化器症状、ワーファリンの薬効を減ずる事がある コレスチミド®
コレスチラミン®コレバイン®
クエストラン®プロブコール ↓ − ↓↓ QT延長や消化器症状など プロブコール シンレスタール® ニコチン酸
誘導体↓ ↓↓ ↑ 顔面紅潮、
肝障害ニコチン酸
トコフェロールユベラN® N-3系多価
不飽和脂肪酸− ↓ − 消化器症状、
出血傾向や発疹などオメガ-3
脂肪酸エチルロトリガ® PCSK9阻害剤 ↓↓↓↓ ↓
~
↓↓−
~
↑注射部位反応、
胃腸炎、肝障害、
CK上昇などエポロクマブ
インクリシンレパーサ®
レクビオ®MTP阻害剤 ↓↓↓ ↓↓↓ ↓ 肝機能障害、
胃腸障害ロミタピド ジャクスタピッド® 日本動脈硬化学会:
動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2018年度版よりスタチン系薬剤のLDLコレステロール低下作用に基づく力価換算表
スタチン LDL
コレステ
ロール
低下率HMG-CoA還元酵素阻害薬(=スタチン) ロスバスタチン=クレストール® アトルバスタチン=リピトール® ピタバスタチン=リバロ® シンバスタチン=リポバス® プラバスタチン=メバロチン® 高強度
(50%以上の低下)56 20mg 54 52 10mg 50 40mg 中等度
(30~50%未満の低下)48 46 44 5mg 42 20mg 4mg 40 40mg 38 2.5mg 10mg 36 34 2mg 32 5mg 20mg 30 低強度
(30%未満の低下)28 26 24 22 1mg 10mg 20mg 20 10mg 18 5mg 16 5mg the ACC/AHA Guideline on Treatment of Blood Cholesterol 2013
治療の達成目標数値は、以下3つの背景別で異なります。
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家族高脂血症
脂質が高くなる遺伝病です。若年から心筋梗塞などの動脈硬化疾患を起こすことが特徴であり、十分な治療が必要です。
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冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞(明らかなアテローム*を伴うその他の脳梗塞を含む)の2次予防
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1次予防
家族性高脂血症や2次予防に比較すると、管理目標値(以前のスライドへリレーション)は低くなるが、低ければ低いほど好ましい事に変わりはありません。
薬物治療のキーとなるのは、以下の3種類です。
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スタチン
コレステロールを合成するために必要な酵素であるHMG-CoAを阻害する事で、肝臓でのコレステロール合成を抑制します。最も汎用される薬剤で、最も使用効果と利益が明らかです。しかし、容量依存的な効果ではないために、達成目標に至らない症例には、次のエゼミチブやPCSK9阻害剤を追加する事が一般的です。スタチン使用時には稀に、横紋筋融解や肝機能障害があるので、効果と副作確認のために、定期的な血液検査が必要です。
Jones et al. Am J Cardiol 2003 -
エゼミチブ
スタチンの効果が限界のためスタチンに追加するか、スタチンが副作用で使用できない症例に使用します。小腸からコレステロールを吸収阻害する薬剤です。
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PCSK9阻害剤
PCSK9はLDL受容体の分解を促進するタンパク質です。スタチンはLDLコレステロール低下治療の第1選択薬剤ですが、PCSK9 ⾎中濃度を増加させるためその効果に限界があります。PCSK9阻害剤は肝細胞のLDLコレステロール受容体を増加させることで、肝臓でより多くのLDLコレステロールを分解できるようになり、その結果、血液中のLDLコレステロールが減少します。
効果と有害事象に対するフォローアップ方法
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