歴史と伝統を未来へつなぐ甘木絞り作家

クリニック周辺で頑張る人々の姿をインタビュー記事と写真で紹介する「地域の主役たち」。どのような思いやこだわりを持って取り組んでいるのかなどをお伝えしていきます。

福岡県朝倉市(旧甘木市)にある伝統工芸「甘木絞り」をご存じですか? 甘木絞りは、藍を主とした木綿の絞り染。多様な柄と美しい藍色が特徴です。その歴史は古く、江戸時代後期から始まったと言われています。明治時代には日本一の生産量を誇り、国内外に出荷されていたほど産業のひとつとして、甘木に住む人々の生活の支えとなっていました。
昭和初期に産業としては途絶えてしまいましたが、1995年伝統の復興を目的に「朝倉市シルバー人材センター 甘木絞りグループ」が発足。地域一体となって、伝統を受け継ぎ、次世代へつなぐ活動に取り組んでいます。

その担い手のひとり、甘木絞り作家の大村久美子さんにお話を伺いました。大村さんは旧甘木市のご出身。ご実家が染物工場を営んでおり、かつては50人ほどの社員を抱え、地元の産業を支えていました。そんな環境で育った大村さんは、幼い頃は当たり前のように染物工場の手伝いをしていたそう。
「鮮やかな青い花が咲くツユクサを子供たちが摘んで、汁を出して下絵を書く色液造りの手伝いをしていたんですよ。でもそれが嫌いで逃げ出してね。結婚して転勤族で北海道、四国、大阪と各地に住んで定年後に福岡市に戻ってきたんです」と当時を振り返ります。

そんな大村さんが地元に戻り、「甘木絞り」に出会うきっかけとなったのは、息子さんの結婚。「父が息子をえらい可愛がって。甘木に来いって引っ張ってね。息子はこっちで就職して結婚して家を建てたんです」。そんな中、大村さんはお孫さんにも恵まれ、息子さんたっての希望で地元に戻ります。「甘木に戻ってくるつもりはなかったんだけど」とニッコリ。
地元に戻り、「シルバー人材センター 甘木絞りグループ」に出会います。「ちょっとやってみようかな」という興味から始めたところ、日を重ねるごとにどんどん甘木絞りに魅了されていきました。活動を始めて20年、現在は多くの作品を生み出しながら、歴史と技術の継承に取り組んでいます。

甘木絞りはすべて手作業。まずはじめに布にデザイン(図柄)を描き、その図の通りに糸を縫って絞ります。布を藍液に浸すと、この絞った部分が白く残り、美しい模様となります。絞りには、鹿のこ絞り、巻き上げ絞り、つまみ絞り、帽子絞りなどさまざまな技法があり、それらを用いて、絵画のような美しい模様に仕上げます。
「絞り方によって1本1本色々違う表情が見えるところがいいんですよ」と大村さん。同じ技法を用いても、ときに儚く、ときに力強く、その表情はさまざまで、作り手の個性が光ります。「難しいところはこの絞りの加減ですね。勢いがあった若い頃の絞り方と今とで全然違う。過去の作品を見たら、昔は元気がよかったなって思う」と話します。

甘木絞りのもうひとつの魅力は、藍色の美しさ。繰り返し布を染めて乾かすことで、美しい深い青、藍色になっていきます。気温や時間、浸す回数で色の濃淡や表情も変化するそう。美しい色を出すためには、染料の管理も重要。気温によって左右されるので、日々適切な管理が必要なのだそう。このようにきめ細かな工程を得て、美しい甘木絞りが完成します。

「甘木絞りグループ」の工房には、多種多様な甘木絞りの作品が彩られ、目を奪われます。大きな掛物から、洋服、風呂敷、手拭い、バッグなど、日々の暮らしに寄り添うものまで、個性豊かな作品が多く並んでいます。はじめは趣味の範囲で始まったという甘木絞りですが、展示会など行ううちに認知され、若い人も増えているそう。

60歳を迎えてから、新しいことに挑戦し、今も現役で活き活きと輝く大村さん。この「甘木絞りの伝承活動」こそが、大村さんの元気の源なのだそう。「手先を使っているでしょ。手仕事は健康寿命にいいっちゃないかな。女性たちが集まってお弁当食べて、話したりするのもいいのかな」と教えてくれました。

「甘木絞りグループ」の女性たちは今日も甘木のまちを元気にしています。定期的に展示販売会を開催しており、甘木絞りの体験もできますので、ぜひその魅力に触れてみてはいかがでしょうか。

2024.04.15
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