挑戦を続ける農家の情熱。万能ねぎと黒にんにく

肥沃な大地と豊かな水源に恵まれた福岡県朝倉市。この地で長年にわたり、農業一筋に取り組んできた村上博文さん。彼の手から生まれるのは、日常的に家庭の食卓でも親しまれている香り豊かな「万能ねぎ」と、おいしさと健康効果を兼ね備えたスーパーフード「黒にんにく」。その農業人生をひも解くと、朝倉の風土が育む作物への愛と情熱が浮かび上がってきます。


「万能ねぎは朝倉が発祥なんですよ」と話す村上さん。実は朝倉地方には、万能ねぎの起源が深く根付いています。江戸時代からこの地で育てられてきた小ネギは、地域の特産品として愛され、やがて全国へと広まりました。
村上さんが育てる万能ねぎは、「朝倉カットネギ」のブランド名で、全国のラーメン屋やうどん屋、スーパーなどに出荷され、その品質は高く評価されています。

 


「万能ねぎは育てるのは簡単ですが、手間を惜しめば良いものはできません」と話す村上さん。年中休むことなく土作りに励み、毎日種を蒔くという地道な努力が、その品質の高さを支えているのです。「沖縄から北海道まで、毎日出荷しています」と語る村上さんの表情には、手間を惜しまない作業への自信がにじんでいました。

挑戦を続けた13年間、黒にんにく完成までの歩み

万能ねぎ一筋だった村上さんがにんにくの栽培を始めたのは、今から13年前のこと。そのきっかけは、偶然耳にした「熟成黒にんにくの健康効果がすごい」という言葉でした。その言葉に心を動かされた村上さんは、すぐさま行動に移し、にんにくの名産地である青森まで足を運びます。そこで黒にんにくを熟成させるためのボイラーを購入し、本格的な黒にんにく作りへの挑戦をスタートさせました。

村上さんが手掛ける黒にんにくは、「平戸にんにく」と呼ばれる品種。さまざまなにんにくの品種を探し、試行錯誤を重ねた末、ようやく理想の品種に出会ったそう。「この平戸にんにくにたどり着くまでが本当に苦労しました」と当時を振り返ります。その独自に選び抜いた「平戸にんにく」を暑さが落ち着く10月ごろ植え付けし、5〜6月ごろに収穫します。「にんにく栽培は天候に大きく左右されるし、植え付けや収穫のタイミング、肥料のバランスが非常に重要なんです」と村上さん。

村上さんの長年の経験と感性で手間ひまかけて育ち、収穫されたにんにくは乾燥機で1か月ほど熟成され、その後さらにボイラーで低温加熱されることで黒にんにくに生まれ変わります。完成した黒にんにくは、羊羹のようにしっとりとした食感と自然な甘みが特徴で、栄養価も豊富。抗酸化作用を持つポリフェノールや免疫力を高める成分が豊富に含まれており、健康志向の消費者からも大変な人気を集めています。

挑戦を続ける農家の想い これからもいい作物を作り続けたい

73歳とは思えないほど元気な村上さん。その健康の秘訣は、毎日欠かさず食べているにんにくにあります。特にお気に入りなのは、殻ごと揚げた「素揚げ」。「一番おいしいのはやっぱり熟成黒にんにくなんですけどね」と、笑顔で語ってくれました。
そんな村上さんの一日は、朝3時に起床して畑に向かうところからスタートします。お酒を飲まず、夜8時には就寝するという規則正しい生活も、元気を支える重要な要素のようです。畑での作業は、約30人のスタッフたちと息を合わせ、笑顔で進められています。その生き生きとした姿からは、村上さんの農業にかける情熱が伝わってきます。

現在、村上さんが手がけた黒にんにくは、朝倉市内の道の駅や直売所で購入できます。「これからも健康にいい作物を作り続けたい」と話す村上さん。
朝倉発祥の万能ねぎから黒にんにくまで、村上さんの手で育まれた農産物は、私たちの食卓に彩りと健康をもたらしています。その背後には、挑戦を続ける一人の農家の情熱が息づいていました。朝倉を訪れる機会があれば、ぜひ村上さんの黒にんにくを手に取ってみてください。

[地域の主役達] (2025.05.26)