家族の絆が育む花の美しさ!胡蝶蘭農家の軌跡
気品があって美しく、特別な存在感がある胡蝶蘭。贈り物として代表的な花の一つで、開店祝いなど街中でもよく見かけるのではないでしょうか。
朝倉市小隈にある「白鳥園」の胡蝶蘭は、農林水産大臣賞受賞をはじめ、福岡県知事賞など様々な品評会などで高い評価を得 ています。その胡蝶蘭を栽培しているのが代表取締役を務める和佐野礼子さん。華やかで高級感溢れる大輪やコンパクトサイズのミディ胡蝶蘭など約20品種、約2万5千鉢を栽培。ハウスに隣設された直売所では、お気に入りがすぐに購入できます。
「白鳥園」は、鉢花栽培の先駆的存在だった義父・喜代太さん(故人)が35年前に創立。他の人が作れない胡蝶蘭を目指し、肥料や光の当て方など様々な工夫を手探りで試しながら、立派な胡蝶蘭を作り上げました。現在は長女・由樹さん、三女・菫さんも加わり、女性従業員6人でお客様とのつながりを大切にしながら、栽培に励んでいます。
植物を育てるには、ご存じの通り時間と労力を要します。胡蝶蘭は種を植えてから出荷するまで約2年半かかるそう。「長いスパンで見ないといけないのですが、義父は独学で進めて形にしてきました。大変だったと思います」と和佐野さん。栽培の環境によって花の持ちが変わる繊細な花なので「日々の温度管理がとても大切です。クーラーがなかった昔は、天気を見ながらカーテンの開閉で調節していました。天気予報が雨でカーテンを開けて外出したことがありましたが、急に晴れて急いで帰ったこともしばしば。胡蝶蘭は、直接日光に当たってしまうと葉が焼けて育ちが悪くなってしまうのです」。クーラーを使用するようになってからも突然の故障などが起きた時のことを考え、留守にすることはないと言います。
徹底された管理のもと、優美で美しい花が咲き始めます。胡蝶蘭で印象的なのは縦にきれいに並んだ花姿ですが、美しい姿に仕上げるまでには技術が必要です。和佐野さんによると、栽培を通して一番気を使うのがまっすぐ伸びた茎を曲げて花がきれいに並ぶように仕立てる誘引作業だそう。「曲げ方次第で形や仕上がりが変わってしまうので一番神経を使いますね」。愛情を注ぎ育てた胡蝶蘭がお客様の元へ届き、「ここの胡蝶蘭は花の持ちがとても良いわ」と言っていただけた時がとても嬉しい時だと言います。
17年前にご主人が他界し、パートの方々と一緒に働いていた和佐野さん。ある日、義父が入院することになりました。要となる義父の不在は「白鳥園」にとっても、和佐野さんにとっても一大事。和佐野さんは「出荷作業など義父しか分からないことが多く、花姿の評価対象もよく分からない状態でてんやわんやの日々でした」と当時を振り返ります。そんな中、農業大学に通っていた長女の由樹さんが時間をみつけて手伝いに。なんとか危機を乗り越えましたが、改めて義父の存在の大きさに気付かされたと言います。同時に「実際に表で働かないと分からないことが多く、自分で考えて動かなきゃいけない」とも。仕事に対する意識が変わり、義父が退院してから「一通り任せてほしい」と懇願。さまざまなことを教えてもらいました。それでも、義父が他界してから栽培について相談できる人がいなくなって大変な時があったそう。
その時は「義父が確立した栽培法などを教えていた生産者の方が、今度は私に教えてくれるようになりました。義父の偉大さをまた実感した瞬間です」
小さい頃から遊びに来ていた場所で仕事をするようになった由樹さんと菫さん。「家業だからというのもあるけど、祖父が生きている時にどんな思いで胡蝶蘭を栽培しているのかとか、話を聞く機会があって。それを聞いたら面白い仕事だなと思い始めました」と由樹さん。菫さんは「胡蝶蘭があるのが当たり前の環境だったので、高価なお花ということを理解していなかったし、最初は言われるがまま仕事をしていました。だけど、自分で考えて働こうと思うようになり、母や姉と試行錯誤しながら仕事をするようになった今はとても楽しいです」と笑顔。
和佐野さんは、栽培を通して心掛けていることがあります。それは「女性ならではの視点を大切に」ということ。「仕立てる中で、細かい部分を丁寧に仕上げることができるのは強みです」。
今後の目標は、リニューアルした直売所を活発にしていくことです。「元々は生産するだけでしたが、直売を始めるとお客様の生の声が聞けるようになりました。育てた胡蝶蘭を褒めていただけると嬉しいし、やる気につながります」と3人。さらに、由樹さんと菫さんは「ここで地域を盛り上げることがしたいですね」と言い、広い駐車場を利用したマルシェなどのイベントを思案中のよう。和佐野さんは義父から受け継いだ「白鳥園」を義母・ハマ子さんと守りながら、一人でも多くの人を笑顔にするために今日も張り切って胡蝶蘭ハウスへと向かいます。